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理事長挨拶

日本腎臓病薬物療法学会 理事長 竹内裕紀 (東京医科大学病院薬剤部)

 2020年の一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会(JSNP)学術大会・総会におきまして、初代理事長の平田純生先生の後任として、2代目の理事長に就任することになりました。

 当学会は2006年に7つの地域腎薬が集まり「日本腎と薬剤研究会」として結成され、2012年に13の地域腎薬によって学会となり、設立当初400人足らずの会員数は2014年には1000人、2017年には2000人を超え、2020年9月1日には2648名に達しています。

 当学会は平田純生前理事長、木村健前副理事長らが、1999年に関西腎と薬剤研究会を結成し、そこから徐々に全国に波及し2020年時点では27の地域の腎と薬剤研究会の仲間が集まって結成されています。このような地域の研究会が協力して設立された学会は他に類をみません。これは当学会の大きな特徴の1つであり、当学会と地域腎薬が有機的に協力しあいながら、さらに活性化していければと思っております。

 当学会の使命は腎疾患患者の薬物療法に関する幅広い教育・研究を行うことによって、医療に貢献することにあります。引き続き、この使命を達成すべく①高齢や腎疾患が原因で腎機能が低下した患者への過量投与による中毒性副作用の防止、②薬剤性腎障害の防止、③糖尿病腎臓病(DKD)、高血圧症、免疫学腎疾患などの原疾患への薬物療法によるCKDの発症・進展予防、心血管合併症の予防、④透析患者の合併症に対する最適な薬物治療の提供、⑤TDMを駆使した腎移植後の適正な免疫抑制療法などを目標に研究・学習活動を推進していく所存です。

 学会設立当初より目標としてきた腎臓病薬物療法専門薬剤師・認定薬剤師制度につきましては、2020年12月現在、専門薬剤師は20名、認定薬剤師は142名で合計162名となっております。これらの専門・認定薬剤師が主導的立場で、腎臓病薬物療法の適正化に貢献して頂ければと思っております。しかし、まだまだ十分な認定薬剤師の人数ではありませんので、さらに新規認定者の増加および認定更新を確実にしていけるような教育体制の充実に取り組んでいきたいと思っております。

 また、当学会が認定する腎臓病薬物療法専門薬剤師・認定薬剤師以外に、薬剤師が取得できる腎関連の資格には2つあります。1つは2018年に日本腎臓学会が主導し、日本腎不全看護学会、日本栄養士会、日本腎臓病薬物療法学会の4団体で協力して腎臓病療養指導士制度を立ち上げ、現在はNPO法人日本腎臓協会によって認定される腎臓病療養指導士です。腎臓病療養指導士はCKDの進行を防ぎ、末期腎不全までの進展を防ぐことを目的としています。また、透析療法を受ける末期腎不全患者や腎移植患者への適切な支援と指導など行うことを目的として日本透析医学会が中心に当学会など関係学会が協力し、日本腎代替療法医療専門職推進協会が設立され、腎代替療法専門指導士の資格制度を創設する予定です。これらの3つの認定資格制度を有機的に融合させて、腎臓病患者さんへ貢献していきたいと考えております。

 当学会の学術活動の中で、臨床の薬物療法に最も貢献しているものとして、平田前理事長がその土台を作り、毎年改定している「腎機能別投与量一覧データ」があります。この一覧データは定期的に学会誌に掲載され、薬物体内動態情報も含んだ特別号(通称:グリーンブック)が2年に1回配布されています。また、学会ホームページ上ではすべての方が「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧を、当学会会員の方には腎機能別投与量一覧データ掲載の全薬剤をPDFデータにて閲覧可能としております。さらに、2年毎に改訂版を発刊している「腎機能別薬物投与量一覧POCKETBOOK」を当学会員に無料で配布し、学会員に還元しています。さらに、学会員からの要望が強い腎機能別投与量一覧の電子データ(電子カルテなどシステムに組込むためのデータ)の販売をも2021年4月頃に行う予定です。今後もアプリ版などの時代に即した会員が望むものを作成していきたいと考えております。

 また、ガイドライン対策・作成委員会では腎の薬物療法に関わる診療ガイドラインのパブリックコメントの募集に対して積極的にコメントを提出しています。最近ではこの活動が他学会からも認識され、他学会から本学会に対してガイドラインの査読依頼が来るようになっています。さらに腎臓学会などの他学会から「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン作成委員会」などのガイドライン作成委員も依頼されるようになってきています。日本動脈硬化学会からは、フィブラート系薬および選択的PPARαモジュレーターの腎機能低下患者の投与に関する添付文書の整合性が取れていない記載内容についての意見を求められ、本学会としての意見をまとめて対応を行いました。引き続き、ガイドラインのパブリックコメントへの対応は重要なことであり、積極的に取り組んでいきたいと思います。

 専門・認定薬剤師を認定している学会として、各種の研修などを開き、専門・認定薬剤師をはじめてとした方々への教育の充実・実践をはかるため、学術教育委員会を学術委員会と教育委員会に分けることにしました。今後は学会独自の研修会の開催やe-learningコンテンツの作成などを行っていく予定です。

 当学会の薬局会員は2020年9月現在では 659名(25%)と徐々に増えておりますが、薬局において高齢者などの腎機能低下患者の投与量の確認・疑義照会はいまだ適正に実施されていない場合も多いのが現状です。そのため、新たに薬局参画推進委員会を立ち上げ、いまだ後を絶たない腎機能低下患者の中毒性の副作用を減らしていくための活動をしていきたいと思っております。

 腎疾患関連の薬物療法は最近でもHIF-PH阻害薬の開発、SGLT2阻害薬の腎機能低下の進展抑制など常に進化・発展しており、それに応じてエビデンスが蓄積され、ガイドラインも変化していきます。当学会では、それらの変化に敏感に対応しながら腎臓病薬物療法をよりよくするため、各種腎臓関連学会・団体や薬学関連学会など多くの方々と協調しながら、全力で取り組んでいく所存であります。今後とも、当学会の活動や運営に対して、御理解、御協力、御指導の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

2020年12月28日